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感心したやうに呟くと、房一はくるりと向ふむきになつて歩き出した。
「いや、なに」
「それからね」
小谷は相手にされなかつたやうに感じてちよつと顔をしかめた。が、しばらくすると又声をかけた。
と、その小柄な身体から出るとはとても思へない、幅のある、濁だみ声で云つた。
「どうも、済んまへんでした」
が、登り切つた所で、ふりかへつて盛子を待つた。そして、何となく様子のちがつたゆつくりさで登つて来る盛子の、上うは目になつた、意味ありげに笑つている顔を見た。
「あ、さう云へば」
「相沢の先代が生きている間は知吉さんも手が出なかつたのさ。目の上の瘤がなくなつたから、いよいよ本性を出したといふところだらう」
「わたしやア――」
そのとき、女房に命じて、温泉を加熱する装置を施してもいいか、ときかせると、
小谷の店では実にあらゆる品を売つていたが、その中には僅かだが薬品類もあつた。したがつて、高間医院は小谷にとつて多少のお得意先でもあつた。今では、小谷は心易立てに注文のあつた薬品を「店主自から」ぶらさげて房一の所へ持つて行き、そのまゝ話しこむやうになつている。
と、云ひかけたまゝ、相沢の黒味の多い眼はぢつと房一の顔をのぞきこみ、云ひかけたものがその中で煙つているやうな表情をした。