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盛子は時々半ば無意識に呟いた。
さう云ひながらぽんと軽く下腹をたゝいた盛子の巧みな、しなのある手つきが目に浮かんだ。それは、そこだけ切つてとつたやうな鮮かさで残つていた。
「もうこんなに暗くなつているのにね、何してるんでせう」
「ね、君」
「よし!」
と、酒が少し入るとすぐ真赤になる性質の房一は、その紅黒い顔を火照ほてらせ、円い身体を持扱ひかねたやうになつて訊いた。
「やっぱりチブスで?」
これが若し他人だつたら、或ひはかけがへのない一人息子でなかつたら、正文もいさぎよく結着をつけてしまつたらう。「道楽息子」――その一言で済むわけだつた。
「こゝの消防演習をやつたのだ。そんなに騒ぐことはない」
「今日はえらい早いお帰りだね」
「ふむ、ふむ。――どなたでしたかね。お名前は?――ふむ、ふむ。――住所は?いや、字あざはどこでしたかな――ふむ、ふむ」
「いや、わしは出んぞ」と叫んだ。
小谷は相手にされなかつたやうに感じてちよつと顔をしかめた。が、しばらくすると又声をかけた。